藤目節夫のブログ

まちづくりに関することが多いですが、それ以外にも、徒然に思うことを書きます。

暮らしのものさし

 人は誰しも心の中に「暮らしのものさし」を持っている。自分の日々の暮らし、暮らしを取り巻く環境、さらには社会の出来事などを評価する基準である。「価値観」と置き換えても良い。それゆえ、同じ暮らしや環境、条件でも、保有する「ものさし」によりその評価が異なる。山里に移り住んでつくづく思うことは、ここでの暮らしを彩り豊かにするか否かは、「ものさし」の持ちよう次第ということである。

 ある秋晴れのさわやかな日であった。庭にはいつものようにトンボ(アキアカネ)が飛び交っていたが、気まぐれにそのトンボに指を差し出してみた。すると思いもよらぬことに、我が指先に止まったのである。子供の時には友達とトンボを捕りによく出かけたものだが、トンボが指に止まるような経験をしたことはない。

 もとより、取るに足りない話であり、新しい事実の発見ということでもない。他人にとってはどうでもよい話であろう。しかしながら、私にとっては、山里の暮らしに彩りを添える出来事であり、私の「暮らしのものさし」の琴線に触れる出来事でもあったのである。爾来、アキアカネに出会える秋の訪れが待ち遠しいものとなった。

 全国の中山間地域で種々の活性化事業が展開されているが、ほとんどはモノづくり、コトづくりである。その重要性は論を俟たないが、さらにはココロづくりも必要ではないか。新しい「暮らしのものさし」づくりである。まちづくりとは、地域住民が諒解できる「暮らしのものさし」を、みんなの知恵と汗で創造する営為ではないかと思っている。(愛媛新聞・平成26年1月30日 「伊予弁」 一部修正加筆)